その樹は言った

観るも弱々しい姿で、地面から伸びていた。
周りの土はむき出しで、草がところどころ生えてるだけだ。
俺の何物も、その樹が支えてくれるというのは、中々に危なげな話だった。

それでも、俺にはこの樹が全てだった。

 
あれは、一人で全てを担うには不可能だと云う。
樹は、雑草たちに呼びかけた。
もう一度、土に。死する魂を、風の扉を。

様々な無念の想いを、死して尚、未練を抱くあの子達の想いを、我らに運んで来て遅れ。
 

死が、死する魂の、無念の想いが、この土地を揺り動かすとき。
全ての不安を、苦しみを、虚しさを、虚無な想いを、土は抱きかかえ、天に還してくれるだろう。

我らの土は、全てを受け止める。
無念の想いは我ら一つの元に集い、辺りの存在に響きあい、乾いた土に、水がどんどんと染みこむように。
天が、地が、雨が、太陽が、この乾いた心に染み渡る。我らに力を貸してくれる。

 
我らは、不安を共にする。その感覚を研ぎ澄ませて
すべてを、この地と、水と、太陽に、月に、委ねよう。
お前たちがついている。全ては、全てに委ねたる。


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