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Timelessberry✨沈黙の炎

1−3「沈黙の炎」

♪BGM「プレリュード」を鳴らす

赤々と燃える揺らめきは、限りなく影の色を染めていく。
窓際の明かりも、ますます混沌の黒へと飲み込まれていた。

風が嘶き、草原の映える音が耳に伝わってくる。
その心地よい音の交わりは、地に降り注ぐ雨の響きのようでもある。


マーリユイトは蝋燭の火に瞳を揺らされウトウト、静けさに意識が溶けていく。
いつの間に時が回ったのか。外、もう星灯りだけでは何も見えない。


夜空の静寂は奥深く、巡りめく漆黒の闇だ。 辺りの全てを飲み込むように、音のない深淵がこちらを覗かせる。 部屋から一歩出ようなら、とうとう自身の痕跡すら見失ってしまうかもしれない。



気がつけば、今この時を動いているのは自分。
唯一この空間に身を寄せるのは自分しか居なかった。

沈黙が語る。秒針の刻む音、自分自身の息遣い、心拍が一定のリズムを奏でている。
まどろみの中、幾ばくかの鼓動が脈打ち、時が過ぎてゆく・・・

しかし此処は隔離された空間で、このまま延々と時間の概念が進まない気さえした。



蝋燭の明かりが影を揺らしていた。

……ゆらゆらと。ーーー空間が揺らいでいた。


「なんだろう...?」



…。違和感。

マーリユイトは周囲に目を配らせる。よく見えない...特に変わった様子は無い?

本、揺り椅子。テーブルの上に視線を移していき、何かが全身の感覚を横切る。 何か?炎の燭台から一方向に溢れる光の筋。その影に、不可思議な存在が映しだされているような気がした。


「あれは一体...?」


光の一筋を辿ると、飲みかけの紅茶の方へと続き...紅茶のカップ、何かの結晶が集まって。。。星屑だ! お茶に溶かしたはずの星屑が小さく再結晶を成し、炎の熱を一心に浴びているではないか!
(星屑が再結晶化し(うまれかわっ)ていた!)


マーリユイトは不意に心を揺さぶられた。 形あるものはいつしか崩れ去ってしまうが、姿形が見えなくなったとしても、決して存在自体が消えるわけではなかったのだ。

思わず『星屑の再結晶』を掬い上げ、手に取って見た。
少し湿っていたので、両の手に乗せて息を吹きかけ、乾かしてみた。
昨夜、初めて掬い上げた星々の欠片が、再びこの手に輝きを成した。

この空間でも星は廻っている...「時」が刻々と進んでいるのを実感する。 「時」は実態を持たずして万物の在り方を流転させ、まるで生き物のよう。目に見える場所と見えない場所...生と死を循環させながら、砂時計を反転させながら、瓶の砂の一粒一粒...その姿は進むべき形を求めて、星(せい)と海(し)の狭間を揺れ動いてゆく。

僕らはその一粒一粒の集合体を感じることで、目の前の「現実」を認識していくのだろうか。そして未来の空間を型どっているのだろうか。


ふと思考を巡らせた、瞬く間。
星屑の灯り火...結晶の中心部から迸る焦熱の輝きが。

吐息を吹きかけた手の平から、一筋の輝きが炎をまとい、渦を成して。もしや何かが解き放たれようとしている? 零れた軌跡が定められた紋様を独りでに描かんと、まさかの幾何学的な形に結びつき、辺りの空間に共鳴した。

炎の魔法陣が自ずから描き出されてしまった!


読み解くか原初の言葉。

特定の響きが重なる、石樹の水に波打つ、星々の揺らぎ。
古えの記録書は、瞬間に記されし星石の紋様や樹の年輪の集合体だった。

その情報は正確に読み解かれ、それ自身のChronicle(年代記)として幾度も覗かれるだろう。
波の音に見える生命の記憶、それは世界を現す言葉。刻まれた音階が、永久に通ずるハーモニーを奏でる。


図形に施された文字は暗号のようだったが、その記述から微かな意味を伝えられた気がした。 鋭い衝撃が脳裏に沸き起こり、其処に"炎"の刻まれし星碑がイメージされていく。


実態を持たずして、心に直に働きかけるような感覚。

星の結晶に精霊の姿が宿った。解き放たれし「言葉」が空間にイメージを伝え、大氣中の粒子から言語のコードが編み込まれた。 それは時空を超えた物語の解読を試み、星の世界は再生された。


「...」
『...』



星石の全体像が、あたかもスクリーンで満たされたかのようだった。辺りの暗闇が一転。 映像を映し出す先...書斎だった部屋が、瞬く間に異なる次元空間となった!


「あれ...?」


一瞬の出来事。 周囲を見渡すと、其処は混沌とした世界。大地一面が燃えさかる中に、一人立っている。 漆黒の空、降り積もる火の粉の残骸。辺りは灰色。眠けを覚えるノイズ。雑音の交錯。


『 』
「...?」


炎が全景を覆う。


…。


一度瞬きしてみる。

灰色の砂粒、赤黒い情景。
不穏な気配。心に焦りが生じる。何処だ此処は??


……。

『ー』

近くに誰かいる?


—————……。

注意深く辺りを見回した。
もしや、と直感的に、周囲を覆う炎の姿に目が行った。



「...この火が。もしや?」


気づいたら、炎のゆらめきに感情みたいな響きを感じとれた。
ゆっくりと、脳裏に響く声。


『呼び起こしたのは汝か。』


低音のうねりが体中に響く。「唸り声」が炎のゆらぎと共に現れ、その余波で火の粉が迸り、身につけていた衣服にも微かに破片が飛び散った。
やや燃えがらの匂いがしたと思ったら、なんと袖の部分が焦げてしまっていた。


「あつ...い? 」


マーリユイトはその燃え殻を振りほどき、思わずその場を離れた。
まさか焦げ跡が残るほどの残響が、ここ一帯から湧き出ているとは。
眠気が飛んだ、予想だにしない出来事を目の前にして。


『我が炎は、目覚めの証となろう』


炎はその焦げ跡を、何でもない事のように言い放つ。
マーリユイトはまたしても数歩後ずさった。

少し警戒し、沈黙。
その炎の有り様を観察する。


この奇妙で尊大な炎は、何だ!?
見知らぬ世界、次から次に不可解な出来事が押し寄せてくるものだ。

不安。しかし、理を知らなければ歩を進められない。 手探りでも知ることが先決だった、マーリユイトは覚悟を決める。 突如として現れた異次元の景観において、炎の詞に向き合ってみようと。

存在は現象の証だ。燃えさかる炎の地を一歩進む毎に、全身が焦熱で覆われたーーー

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