巡る箱庭✨心に秘めた回答
1−10「心に秘めた回答」
書斎にて、虚空に語りかける。
「さて、マーリユイトよ。お前さんが何者かを私が知っていたとして、それが答えの全てではあるまい...」
スセンは、本棚から古ぼけたノートを一冊とりだす。
それは「ある物語」の、冒頭部分が手書きされていた。
始まりは木漏れ日の揺れる森の中。
時空の歪みに巻き込まれた少年が、はるか未来の星から現世にやってきた。。という下りが描かれている。
彼は森の中で道に迷い、だんだんと日が暮れていく様子に慌てて、急いで見晴らしのいい丘へと登っていった。
そこで彼は、星々の啓示を受け取り、帰り道を見つけて旅立っていくのだった。
何のために少年は現世へと送られたのか。また、少年が何者だったのかは記されていない。。
「この時間軸に彼自身を構成する因果は存在し得ない。ふむ、参ったな。この書斎では、記録を調べようがないのか。」
彼、ユイが記憶を失っている様子にも、思い当たるフシがあった。
おそらく現世の記憶とは「この書庫」に現存する記録の範囲。でしか引き出すことができない。。何らかの制約があるのだ。
すなわち未来の、未だ起こっていない出来事については、現世における記憶が存在しえない。思い出しても空っぽというわけで。
「やれやれ。全知を司る場所も、賢者の称号も、『未来』からの問いかけには殆ど役に立たんな」
だからこそ、現役を退いて久しい。
スセンは、かつて追い求めていた「全知」の領域に達した時。
これまで偉大に思えていた知識の、なんとちっぽけでお粗末なモノであったか。を知ることになった。
孤独に、ただひたむきに知識を深めていくだけの、なんと虚しい人生だったことか。
そんな知識は、一瞬だ。一瞬。
手を伸ばせば、大半の知りたいことを、誰でも瞬時に手に取ることが出来るのにだ。
スセンは、過去の史歴が並ぶ本棚を眺め、書庫の精霊に問うてみた。
「『彼』の帰るべき場所はどこだろうか」
『名前を正確に提示してください』
「...『ユイ』の帰る場所はどこだろうか」
『此処です』
・・・・書斎の立て札が、風に揺れる。。
「判断に困るな。では、改めて...」
静寂が身を包むまで、全神経を集中させて虚空に問いかけた。
「『マーリユイト』の帰るべき未来を・・・」