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Timelessberry✨記憶の継承

1−「プロローグ」

一つの物語が描かれるには、最初に真っ白なキャンパスが必要だ。
スセンは冒頭に書き記した。

「新たなる書は、純白なる一ページに魂の旋律を宿す」



其処にどんな出来事が記されていくのかは織り手次第。 未だ夢の中で、祖の遺志を継ぐ生命の鼓動が、未来の詞を暗に指し示すのみ。

スセンの広大な書斎では、過去のあらゆる出来事が記録書として遺されていた。 忘られた過去の数々が、本棚に幾層にも積み重なって眠っている。

これらの本は、時空を隔てることで何時でも情報を読みとることができる。 どんなに時代を経ても、遠く距離が離れても、未来永劫あらゆる存在との繋がりを魂の旋律で覚えていることだ。



さて。スセンは、白紙のページに突如として浮かび上がった文字を読み、 その響きが織り成す物語について、思考を巡らせていた。

『マーリユイト』


それは名前だった。
この本は、マーリユイトの物語だ。


名前の響きから、その者は真理の記憶を拾い集め、 バラバラになった世界のパズルを繋ぎ合わせる。この世の真理を再編しする定命だろうか、と思案する。


時代背景では...真実の詞は深層に隠れ、「目に映る表層」...見ることのできる姿形のみに判断を偏らせる「枠」が編まれていた。多くの人々にとって「真相の姿」は「表層の仮面」で覆い隠され、誤った認識をさせられていた。

どうしたことか?
その時代は、個々の想いが目に見える形でしか表現できなかったのだ。
見えない夢は存在しないものとして扱われ、ただの間抜けな空想に成り下がっていた。

だが考えてみる、真理は素晴らしく精巧に作られている。真理の未知はどんな状況をも凌駕するほど強く響くのだ。 目に映った事柄だけが全てではない、一人一人の深層に隠された真の(ひびき)を解き明かしたならば、すべての次元が望ましい未来へと導かれるのが道理ではないか。


そうして自身の強く思い描いた未来は夢のキャンパスに描かれ、一つ一つの知られざる宇宙(ものがたり)が生まれるのだ。



ここは"最果ての地"と呼ばれる聖域。

幾つもの旋律(ひびき)が生まれ落ち、役目を終えて還りつく場所。
滅多に実態を持つままの生命体が紛れ込むことは無いが、この日は特別だった。


私はここ最果ての場所で、一人の少年と出会うことになる。
その子は星々の導きによって、幾千もの『星命()』たちに紛れ込んできたのだ。
少年の面影は、まるで『夜空』を映し出しているようにも思えた。


私はその子に心の奥底で尋ねてみた。

「未だ時は満ちておらぬじゃろう。どうして此処に迷い込んだのかね?」と。


彼は弱々しく口どもる。


「此処に来たのは偶然です。もはや"在るべき居場所"が分からないのです。
 何処に向かうべきなのでしょう。何処に行けば良いのでしょう」


幼い声の響きを伝って、そう訴えているように感じた。


なるほど。

私は一目見て、その答えを見つけるには簡単なのだが、今の彼には難しいように思われた。
「迷い子の妖精」が然るべき彼の帰路を塞ぎ、覆い隠しているのが見てとれた。


曖昧に言葉にしてみた。


「その探しものは、簡単に見つからぬとお主は感じておるのじゃろう。なぜだね?」



すると彼の中で僅かに残る表情が強ばり、暗に肯定を示唆される。
事実その通りなのだろう。私は彼に告げた。


「お前さんが望む未来の生き様(きせき)は、自らの内に創造することが出来る。
 己自身の志を一点に定めたならば、自ずから辿るべき道筋が型どられてくるのじゃ。
 夢の実現へと向かう強い意志。その一瞬、一瞬の積み重ねが、かの扉を開く鍵になるじゃろうな」


私がその言霊を星屑に込めてお茶にしたとき、その子は少し驚いたような表情をしていた。
そして間もなくお礼を告げられ、此処から立ち去っていったのだった。

迷い人の痕跡は、ここから無限に広がる大氣の鼓動となって星の輝きに垣間見れるだろうか。


現実の一コマは絶えず、未来へ向かう意志の一粒から成り、結実し、過去の時間層へ凝縮され続ける。
そして揺るぎない意志を積み重ねてきた"証"こそ、今現在のすべての結果に反映されてくるのだ。

過去の遺物に甘んじるのみでは、錆びついた既知の概念に延々と縛られるまま。 それで自らの有り様が存分に発揮できないでは勿体無いのだ。

始まりの物語は、白紙の状態から始まる。枠など無い、あらゆる法則を飛び越え、未来への際限なき創造の光と、どのような()をも超越する強い旋律(おもい)こそが

「魂のあらん限りの輝きを、未来に灯らせてくれるであろう」


さぁ此処から、お前さん自身の成し得る魂の旋律を、物語と音楽にしていこう。
自らの詩が紡がれし、旅立ちの1ページを読み進めようではないか。

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