巡る箱庭✨追憶の情景

1−5「追憶の情景:朧気な記憶と共に

初冬は肌寒く、夜の冷え込みが強かった。


...眠りの中で、マーリユイトは凍える世界に居るような体感を覚える。
大地は凍て付き、樹々は枯れ、果実は萎縮し、種は干からび、芽を出せない。
生命の糧は、地上から尽きようとしていた。


食べられるものが徐々に無くなる候...
すると、地上の生き物たちはどうなってしまうのだろう?

まず最初に、あらゆる生き者たちが限られた資源を奪い合う場面。
それらは共に喰らい合うか、糧を得られないまま細々と飢えて、やがて死んでしまう。
ならばこそ、僅かでも他者を抑えつけ、自身の優位に立つ「力」を我先に見い出さねばならない。


飢えの苦しみ、飢餓感、自分以外はすべて敵。...生者の心は恐慌に迫られていた。 猛吹雪だ。視界も要領を得ない...ただ蠢く音だけが聞こえてくる。それは風? それとも大地の嘆き? 氷点下の寒さが、種を疲弊させ、生命を蝕んでいた。見渡す限りの終わりのない冬が、命在るモノを死に追い詰めていた。

氷河期(アイスエイジ)が訪れた。地獄の光景がこの世に在ったなら、まさに目の前の状況かもしれない。例え先を生き残ったとしても、目減りする食料をどうにかしないことには、孤立と寒さと苦しみの果てに「死」を免れないのだ。



しかし、その状況で生を繋いだ者たちが居た。 いつの日か、食べる必要のない、生命の糧が自身の内に見出され、生き永らえた種族の話として紡がれる。

それは全くの偶然だったそうだ。食べ物が無くなる、存命の手の打ちようがない状況の中。食いつなぐ生を諦める他なかった、冬眠する熊のように、大切な一族と洞窟の中で身を寄せあって、いつか訪れるであろう芽吹きの時を夢見て、永きに渡る眠りに沈んでいく。例え目覚めの時が果てなくとも...と、並々ならぬ覚悟を決めていたと。

眠りにつくことは身体の消耗を極限まで抑えた。静かに、身体の内側を巡る血液が脈打つ、トクン、トクン。互いに、呼吸とリズムを感じ合う。底に生命の無自覚な意思を司っていたのか。寒さに応えながら、彼らは心身の変化を刻々と受け入れていたのかもしれない。極限の果てなき冬に、僅かながらでも適応していけるように。


そうして、太陽の姿が黒雲に隠される時代が続いた。真昼の時でさえ、冷たい闇にうっすらと周囲の陰るだけ。 けれどもし日が昇っていたなら、天空を何十、何百周か巡るくらいの、時が経ったくらいだと思う。 眠った者たちの中で炎が生まれていた、自身の古い身体を燃やす炎の種が、内なる胎動が迸っていた。

炎の気配は見えないエネルギーとなり、一人一人の温かなそれは、大切な存在や共に暮らした異なる種族たちと響きあうことで循環し、調和された輝き(ハーモニー)となって新たな身体を構成していく、生まれ変わった瑞々しい身体が、同一の魂に深く馴染んで結ばれる。眠りの中で、時代を跨ぐ転生サイクルを静かに、静かに繰り返す。



彼らは春の訪れをいつまでも夢見ていた、それぞれは温かな胎動に浸り、もはや飢えの苦しみは存在しなくなった。 終わらない冬が、静寂の中で塗り替えられようとしていた。



夢...いつの時代のことだろう?
彼らはどれだけの間、眠り続けた?
目覚めたのは何時? それとも未だ?



それは、知らない。 気の遠くなるほど永い時間。想像などできやしない。どれほど夜明けの日を待ちわびたことか。


生命の存続が歴史を証明するように、もしかしたら地上の春を既に出迎えて、もう彼らは目覚めているかもしれない。でも、彼らは過去を覚えてるだろうか? もしも何百年、何千年、何万年と、それほどの時間が経っていたのなら、遠い過去を...存在を知りようがないのかもしれない。


未だ、遠い世界に通じているような夢は、深い眠りに解かれていった。
遅い雪解けは、氷の指先を這わせたまま。凍った大地が、いつしか巡り行くその時まで。。。

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