♪BGMを止める

巡る箱庭✨記憶は他者と繋がっている

1−5「夢を照らす記憶」

夢を覚えているだろうか?
無意識の時が告げる。


眠る記憶の一欠片を、夢が映し出す。
その夢を覚えているだろうか?

誰かがその意識に触れる。


一つの意識は夢となり、祈りの言葉を紡いでいた。誰かに想いを聞き届けて欲しくて。
無限の宇宙に祈りは集う、次元を隔て、いくつもの旋律となって集う。 その中から、自らの意識に拾い上げた旋律がイメージとなって世界を紡ぎだす。



夢、それがどんな想いをもって呼び起こされたかを紐解くがいい。

文明社会で生きる人々にとって、城壁で囲われた世界こそが世の全てだった。 囲われた枠組みの中では、それ以外の大きな視点を含めた総体的な誤ちに気づきようがない。 違和感は温度差でしか測れない。枠の中で、皆が同じような視点・考えのもとに画一化されていてはどうにもならない話だ。

彼の星は、すでに形を失くした。
今やマーリユイトの手の内に、欠片の一部が煌めくのみ。



生命の鼓動は、時の歩みを止めていた。
記憶に見た宮殿の塔が墓標のように突き立ったまま。一面灰色に覆われた世界だった。


マーリユイトはその『塔』に、星の魂が封じられているのを予感した。
朽ち果てた残骸から、炎のように揺らめく微かな遺志の片鱗を感じた。

彼の輪郭を見出だせたのはどの辺りだったか・・・

かつて星々の司るエネルギーは、宮殿の『塔』に一極して集められていたようだ。
塔の頂上にある神殿には見覚えのある「星石」が安置されており、その石を機能させて豊富なエネルギーを国の中心部に注ぎ続けていたようだ。


消えゆく灯火の残像が視えた...


人々の中には破滅の啓示を受け取った人物も少なからず居たようだ。 しかし極少数派、先見の明を授かった賢者の進言は、当時の大多数にとって人類の文明を害する異端だった。意も介さず追放処分とされた。

栄誉在る我が国の発展に、水を刺そうとは何事か!?と。


当時の王国は豊かで、平和そのものだった。
ただ一つ、星の地盤が崩れる最中にあることを除いては...


統治者達は見て見ぬ振りを貫いた。その下で暮らす民は文明のもたらす快適さに囚われ、根源なる存在、星々や大地の声に耳を傾ける術を見失っていた。



中には星たちの声に触れ、行動を起こした人物もいた。

妙齢の錬金術士の女性。
天上の太陽を司る「星石」の原案を築き、想いを通じ合わせた女性だ。
橙色の髪を腰の辺りまで靡かせる、聖炎を纏うような雰囲気の彼女は、名をアリシアと名乗った。


「石には想いが宿る。私はその声に耳を傾け、想いの一部を再現する。」


錬金術士たるアリシアの石細工は、どれも見事な異彩を放っていた。
彼女の錬成によって石の核心が形を現し、自身の言霊と掛けあわせて然るべき姿へと原石を磨き上げる。石に刻まれた刻印の下、明確な意図を持って秘められた力を解放させるのだ。其処に新たな命を注ぎこむように。


彼女は、石たちと意識で通じ合った。
かつての文明では、根源の力を宿らせる「魔石」が重要なキーアイテムでもあり、彼女の「石の言葉(マナ)を解する能力」は、王家の者達にも重宝されていた。 文明の発展に貢献した人工太陽の出現は彼女の技術あってこそだった。しかしその結果は、彼女が願ったものにはならなかった。

無限のエネルギーを宿らせる賢者の石の言い伝えがあった。
その錬金が実現すれば、主の世界は望むがままとなる。人々はさらなる幸福を手にするだろう。
そんな言い伝えの末に応えたのは、予想外の結末だったのだ。

賢者の石の成り立ちを解き明かそうにも、その行い自体が叡智の根源に行き着かない。終わりのない迷宮(ラビリンス)に囚われるなかれ。。と警告が告げられる。。


『世界から分断された大地の嘆き、苦しみに我は染まる・・・破滅を望むか愚か者よ』


その言葉はアリシアに伝わった【石】の叫びだった、 彼女は理解したのだろう。時が来る間際、自らの成した錬金を唯の石ころに還元し、人工太陽の魔石を解体しようと反旗を翻した。
もはや一刻の猶予も残されていなかった。

だが、一度に魔石を無力化しては...王国全土、全ての民衆を混乱に招き入れてしまう。
もはや、それなしでは人々の生活が成り立たない状況だった。

アリシアは文明の中心たる発明、魔石と、錬成レシピの書かれた記憶石を手にとり、突如として表舞台から姿を消した。 そんな彼女が重要危険人物として国の要人たちに捕らえられ、地下に幽閉されたのは最も過酷な結末だった。


「星のエネルギーを凝縮させる技術…
 無尽蔵にマナを生む最高級の魔法石…
 原書の太陽の姿を象ったもの…」


その膨大なマナの出処は、大地に根付く生命の基板そのもので、根幹たる魔力の尽きた際には星の地盤諸共、破壊し尽くされてしまう代物。使い方を謝れば、全ての破滅を招いてしまう。理から外れた過剰なる恩恵が、場合によっては生命の弊害となることに、アリシアが気づいたときは手遅れだった。

アリシアは必死な形相で、自らの錬成した「人工太陽」の核の危険性を訴え続けたが、それはすでに彼女の手を離れ国の管理下に置かれている。王国の統治者たちは聞き入れる耳を持たない。

王家の人間や、彼らに仕える人々にとって、重要なのは国の繁栄と文明の発展。
得られる膨大なエネルギーばかりに目が眩み、それが星にもたらす影響と結末まで考えようとしなかったのだ。


もしも彼女のような存在ならば、願わくば自らの遺志を託し、星々の声を世界中に届けられたかもしれない。 と思ったが、彼女一人だけでは荷が重すぎた。塔に幽閉された...たった一人の命に背負わせるには、あまりに残酷だったのだ。


考えても見る。道端の石ころにすぎない小さな存在が、星の全土を大きく左右するなんて誰が想像できるだろう。 アリシアは石のことしか目に映らなかったばかりに、周りに関わる王家の動向、人間社会の動きや、他の技術者との交友関係という部分にまで意識を向けることが出来なかった。

彼女にとっての世界とは、自分と石だけの小さな世界だった。
彼女自身の願った生き方は、大切な石たちの生命と穏やかに暮らすことだった。

だが星を命運を左右する重大な責務を背負ったがために、器が耐え切れなかった。
悔やむに悔やみきれない・・・後悔を綴る詩。




ここで一旦、記憶の残像が途切れた。

星の潰えた最期の記憶。
マーリユイトは、記憶の片鱗から不思議な感覚を思い起こす。もう一人の登場人物の名前。


「錬金術士アリシア・・・?」



一瞬にして過ぎ去った追憶の中で、炎に向ける彼女の眼差しは温かかった。
未だ生まれたての赤ん坊に囁きかけるように。

産声。彼自身の声なき叫び、静かな震えが、心を揺るがせていた。


マーリユイトが見たのは記憶の残像だった。
まだ完全に再現しきれてはいない。不完全な記憶。





時が来れば、いずれ全てが思い出されるだろうか。

そして・・・


「この情景、もともとは『誰』の視点なんだろう?」


ふと、マーリユイトは考え始める。
星の記憶は、後悔の念と再誕の望みを強く強く思い描いていた。

この感覚は、記憶の錬金術士「アリシア」自身も味わったのかもしれない。
だからあの時、星の声を耳にして、居てもたっても居られなくなったのだろうと。


記憶は他者と繋がっているのかもしれない。その物語は、新たな存在の欠片に行き着いた。
星屑の結晶は、過去に生きた英霊たちの声を、記憶の底から呼び覚ますのだ。

次のページへ
【現在の章】第二章「炎の記憶」
1話 2話