巡る箱庭✨炎との邂逅

1−4「炎との邂逅:灯に宿る温もり

♪BGM「プレリュード」を鳴らす

夜の静寂は深まり、いつしか宵闇が訪れていた・・・
外から肌寒さが染みこんできそうだが、暖炉に焚べられた薪の火が、じんわり温かい。
パチパチと、辺りに心地よい旋律を奏でている。

マーリユイトは蝋燭の灯りに意識を揺らされ、まどろみの中で目を開けた。
いつの間に時が回ったのか。お部屋の灯りは、もう蝋燭1本だけ。窓の外は何も見えない。


しかし一本の蝋燭は思いの外明るく、室内の様子をぼんやり伺うことができた。
木犀のテーブルの上に飲みかけの紅茶のカップ、そして分厚い一冊の本。
先刻、スセンが「炎の理」についての頁を見せてくれた本だ。

本を閉じた重厚な装丁の表紙には、群青の宇宙空間を背景に無数の星が映る。中でも一際大きく輝く「太陽」そして眩い「月」のシンボルが印象的。 表紙の額縁をリースで飾るように、樹の実や葉っぱ、花々の模様が背景を包み込んで、所々に動物や昆虫たち、魚や鳥などの姿が隠されている。 そして、星空全体が一つの生命の姿を現しているようにも見える。

タイトルは...[読めない文字]で綴られていた。


最後に覚えてるのは、表紙を開こうと手を伸ばしたことだった。いつの間に眠ってしまったのだろう?

気がつけば、今この時を過ごしているのは一人。
あまりにも静かで、...お部屋を照らす灯火の鼓動だけが鮮明に響いている・・・
スセンさんは、違う部屋に行ってしまったのかな?

見知らぬ場所に一人。心細くも思えたが、火の温もりが、じんわりと気持ちを落ち着かせてくれた。
もうしばらくの間、まどろみの中で温かさに浸っていたい心地になる。


[ほら、また眠気が誘う...]

どうしても。難しい本って、線や円の小さな模様でいっぱいに書かれたもの。
まるで読めない。眠くなる。いつの時代とも知れない、未解の文字だから?


うんん。
でも、不思議と、描かれる挿絵や、文字の配列。
一つひとつの言葉の欠片が、おぼろげな夢の片隅に語りかけてくるようで。


見開いた頁、栞を挟んだ「炎の章」...その存在は、現に応えにきてくれた。
炎の神聖な響きが、凍える闇夜を照らし、温もりと、穏やかな灯を齎してくれている。


聞こえる、パチパチって燃える音。暖かいね...
炎は、この子たちは生きてるのかな?
分からないけど、きっとそうだと良いな。


きっとそう、きっと。
だって、そうじゃないと。僕は...


zZZ...


[僕は、どうして此処に()るんだろう。それも一人きりで...]


目を閉じた...ふとした瞬間に思えてしまう、見知らぬ場所に、マーリユイトは孤立していた。他に誰もいない。 帰る場所、本当の自分の居場所は何処にあるかも、何も判らない、何も思い出せないまま。自身の存在自体に虚無感が押し寄せてくる。

空っぽの記憶は、この場所に訪れた経緯や、生まれた時のことすら覚えてないのに。
何処かの言葉を知ってたり、名前を言えたり、手足を動かしたり、考えたりができるのは。

どうして・・・?


[僕は、何者なの...]


虚空に尋ねても、応えは還ってこない。果てない迷子。
どれも初めて顔を見合わせるモノばかりで、知りようもない。
自分の所在を知ってる人はおらず...孤独と不安で、胸が苦しくなる。


だけど、凍える心身にすぅっと、優しい穏やかな歌が流れ込んできた。
何かが、ずっと寄り添うようにして、お腹の辺りを撫で続けてくれていた。


いつから居たのか? 暗闇に紛れて。温かいもの。

手で触れてみる。毛がふわふわ。
両の手くらいの、小さなふわふわ。

『みゅ?』


ふわふわの毛玉は、ぐるぐる音をたてて擦り寄ってきた。
触ると耳みたいなのもあって、何かの小動物さん?

「キミは、一緒に居てくれるんだね...」


触れた生命の輪郭が、意識の奥に染み渡っていく。
その温もりは、指先に軽く囁きかけるように、そして暗闇の中に溶けていった。

(悲しいことがあった? 想いを患ったなら、夢に浸ってみて)





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魂の言語。伝える想いが 存在の響き(Spell)となって現れた。
記される文字の形も、挿絵の筆線も、交わされる対話も、音階も、大地の模様も、同じ『響き(Spell)

異なる時代の、異なる世界の、異なる種族の、記された音律が未知の言語だろうと、ただ感じるままに受け取れる。 それは(ほど)けて響き合う、心に、夢の中に、内なる『情景』として......

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