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巡る箱庭✨追憶の情景

1−4「追憶の憧憬」

魂の言葉は想いであった。
想いを伝えるために、言語の形となった。
しかし言語の響きが未知の彼にとって、言葉とは光であり、成されたイメージそのものだ。

炎の溢れ満ちた星に、過去の情景が映しだされる。

イメージは暗闇の中に在り、マーリユイトはそれが映し出す景観に誘い込まれている。
記憶は終焉を迎える間際の、星々の想いを象っていた。


星の終焉、その大地は燃え尽きようとしている。
すべてが燃えていた。

どうして?


記憶の残像を霞める、哀しみの嘆き、静かな憤り、想いがマーリユイト自身の内に伝ってくる。
炎が映し出す過去の世界か。マーリユイトは目覚めながらにして、夢の中に足を踏み入れたようなものだ。
表層では炎の明かりの元、砕けた星屑の残骸を視ているにすぎないのだから。


ーーーーー。。

記憶の世界は燃えていた。
地面が、建造物が、すれ違う人々の全てが。

けれども、人々に熱がっている様子がない。
どうして皆は何も感じないのか?
自身が燃えていることに気づかないのか?


炎の照らす世界、マーリユイトは自分だけが熱に魘される感覚となった。
燃えている。人々が楽しそうな表情で燃えている。
足元から頭上を抜けて、燃え殻の炎のイメージが、世界まるごと覆っている。

いったい何がどうなっているのか? この場所は何なのか!?
注意深く、この世界の街並みを伺うことを試みた。


情景の片鱗が、その部分にフォーカスされてハッキリ浮かび上がった。



ー・・・。。


マーリユイトは驚いた。
その光景は、近代文明がもたらした人間社会の営みにそっくりだった。


そびえ立つ高層ビル、塔が景観を覆い尽くし、街道はコンクリートで塗り固められ、道端では色鮮やかな衣装で着飾った人々が行列を作り、パレードのようなものが行われていた。上空では何かの金属で出来た浮遊機体がいくつも飛び交っており、筋を成した雲で虹を描いている。これから何らかの催しが行われるらしい。取り巻く観衆、大多数の市民、艶かしく踊る女性、楽しそうにはしゃぎ回る子供たち。呑んだくれの男たち、皆楽しそうだ。

露店の並ぶ賑やかな街並み。様々な食べ物や飲み物、贈答用の花束、仮想道具、香水、数々のアクセサリー、豪華な石細工、ホログラム映像を使った大画面ステージなど、辺りはカラフルな景観で溢れかえっていた。


時間は早送りのように進んだが、太陽が沈んでも活気は衰えを知らないでいた。幾多もの街灯が宵を照らし、何十、何百発もの花火が夜空を彩る。燃えたぎる一瞬の煌きが、連なって散りゆく。静寂はかき消され、民衆はさらに興奮の色へと染まり、その中で人々は酒と宴に溺れていた。

街中が熱狂で震え上がり、人々は絶頂に舞い上がった。
近代と違うのは、彼らはみな享楽の笑みに満ちていたことだ。贅を尽くし、より派手に、より綺羅びやかに楽しむものとして。

豊潤な星々のマナは、そのエネルギーをふんだんに活用した文明のさらなる発展。栄華をもたらした。
民の暮らしは贅に贅を極めていた。



そんな中、記憶の主は心が凍りつくほどの悲痛の声を漏らしていた。
滅び行く世界は止めようがないのか。と。


「これが滅んでしまった星の世界?」


マーリユイトは記憶の主に尋ねた。パッと見、眩しく綺羅びやかな文明の姿がそこにあった。
しかし主の視点は、人間社会に根付いた当時の文明に、破滅をもたらす因果、避けられない結末を予期していた。

文明の発展を代償に星命のエネルギーは急速に浪費され、星の地盤に深刻な傷を与え続けていたのだ。にも関わらず人々は、荒れゆく大地の惨状に目を向けなかった。当時の文明は城壁という囲いの中で、街中でのニュースや流行のみに人々の意識を向けさせていたのだ。


コレは視点を違えるとどうなのか。マーリユイトは目線を市街ではなく外...静まる大地の鼓動に耳を傾けてみる。 すると今度は、人々の築いた贅沢な文明の暮らしを維持するのに、どれだけのマナが無碍に扱われているのかを。国境から離れるたび...徐々に枯れてゆく大地のエネルギー。小刻みに震える悲痛な星命の嘆きを耳にし、居た堪れない気持ちになった。


目に映る人々の誰もが、自らの足場である星や大地の声よりも、目の前の刺激的な世界へと目をそらされ、自分たちの星が壊れてゆく様子に気がつかないのだった。彼らの行く末は、滅びゆく星の運命と共にするしかなかったのだ。




「この世界、人々にとって大切なモノは何だったの?」



いったいこの世界の有様とは、何の因果なのだろう。
街の中心にそびえ立つ場所に目を向けると、天まで届きそうなほどの豪華な建造物が目に写る。
ひときわ印象的な白い塔。そして金色のオーラが天辺をまとう宮殿。

金箔に敷き詰められた天井に特殊な魔法陣が描かれ、所々に規則正しく宝石の散りばめられた空間。 その紋様は、この星に降り注ぐ天体エネルギーを1ヶ所に集中させ、街全体を照らす役割、人工的に築き上げたマナの太陽を模倣していた。
宮殿の中は特に、この世のものとは思えないほどの美しい情景が広がっていた。


富の象徴は金銀財宝ではない。色とりどりの草花に彩られた庭園。
豪華な食事、ぶどう酒、果物。衣装。立派な建造物と魔法陣による加護?の施された神殿。
それを代々守ってきた血筋の継承者。王族とその側近たち。
そして彼らの寵愛を受ける側室や愛人たち。
さらに、それぞれの要人たちに使える従者が多数。


まさに夢に見た楽園なのだろう。ただし...
星々の嘆きと、大地から吸い上げた多大なエネルギーの上に築かれた。

破滅の因果は収奪から生まれた。


「ねぇ、誰が彼らのマナを根源の地に還すの?」


問いかけは返ってこない、けれども在るべきものは在るべき場所へ。因果はいつか精算せねばならない。
それなのに目先の魅惑に固執するあまり、不条理な穢れを...見えない領域に追いやろうとした。
彼らに突きつけられる裁きとはカルマ...多大なる代償を償うこと、それを無意識に恐れる。自覚を免れたくて、正常な自我を見失うのだ。
戒めよ。恐れとは、罪を自覚し真実を見定めるためにある、しかし...自我を失くしては、改善のしようがないのか。理は歪む一方である。終焉の啓示が積もり積もって、彼らの世界は自らを巻き込んで消滅したのだ。

「ねぇ、いつまで気づかないフリを続けるの?」


記憶の主は囁きかけた。
振り返れば、世界の愚かな結末でしか無かった...


星と共に滅び去る、文明の終わりが、今でも脳裏に焼き付いている。



ああ、銀色の雪。崩れ去る灰色。
赤黒く燃える空が次々に大地を焦がし
人々の築いた広大な都市は、その存在ごと全てを燃やし、ひび割れた大地の底へと沈んでゆく。


彼らは、この程度の栄華に焦がれていたのだろうか?
それとも儚い夢の宮殿を、永遠に閉じ込めておきたかったのだろうか?

だから時間を留めようとしたのか。


けれども秒針が1刻みでも進んだが最後、
それは瞬く間に崩れ去るほか道はない。刹那の瞬き。大地のマナはとっくに失われた。
文明の構築者たちは因果を精算できない行いを繰り返すことで自ら終焉を選んだ。おそらく無意識に。

欠片たちが再び渦となり、虚無の空間を漂うこととなった。


その中に炎の宿る残留思念、星屑の欠片となった存在も。
星と共に生きた命運に身を焦がして、いつか再び生まれ変わる日を夢見て。


記憶の中で、一つの星命が終わりの時を告げる...
彼はその時、何を感じ、何を思って運命の道連れとなったのか。

水、人々の燃え盛る炎を沈めるための、生命の水。
凍りついてしまった彼の心を溶かす、温かな光は何処かに存在したはずだった。


「星の滅び、人の行い。人を動かす思考。意識。
 不自然から生まれた文明の利器よ。そもそも何が為の行いであったのか?」


彼は最期、自らの遺志に碑文を書き記した。


「新たな星に文明は告げた。混沌は再び訪れよう。しかし調和を司る鍵は、過去にも未来にも如何なる場所にも存在している。私の声よ、届いてほしい。全ては生命の記憶から、何か気づきを得られよう」


その情景はまどろみの中で。

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