巡る箱庭✨新しい一日

1−7「祈りの場」

朝食の後、スセンの案内で周辺のエリアのお散歩に出かけた。
スセンは連れて行くエリアごとに、そのエリアを包括する虚空へとユイを紹介し、
彼らにもユイの出自を助けてもらうように呼びかけていた。

ユイ。結。ユイくん。ユイという名で良いね。
というのも、その略称の方が親しみを持てるからね。


道中でまず案内されたのは、草地にポツンと立つ簡易ドームと焚き火の場所だった。
そこは「祈りの場」と呼ばれていた。


エリアの中心にある盛り土から4つの十字路が地面に掘られ、
片方の側に焚き火用のピット。もう片方の側に簡易ドームが立てられていた。


「方角のことは分かるね?」
「えと、お日様が昇るのと、沈む方向のこと?」

そうだ。とスセンは説明を続けた。


「焚き火は、中心の祭壇から見てちょうど真東に作られてある。夜明けの始まり、太陽の【火】のエネルギーは【東】から生まれるからね。
そして祈りのドームは、祭壇を挟んだ反対側の西に。ここで朝と晩、私たちは一日の節目を祈るんだ。
今日どんなふうに過ごすか、どんなことがあったかを、皆と会談をしてるんだよ」


少し静かにしていてね。と、スセンは周囲に意識を広げた。
ふと、空気の流れが変わり、そよ風が中心に集って、草木の香りが仄かに感じ取れた。
一瞬だけ虫の声が止み、そしてまた静かに、虫たちは周囲の音楽を奏で始めた。
小鳥たちも、そこかしこで鳴いていることに、ようやく気づいた。

朗らかな青空、穏やかな草地の上に、私たちは立っていた。
ここに立っていると、まるで周りの草木や虫、色んな生き物たちが、自分自身の感覚と繋がっているような気がした。


「周りの反応が分かるかい? 改めて、ここで自己紹介をするとよい。皆が助けになってくれるだろう」

厳かに、年長者の威厳をもって促されるので、ユイは少し困惑した。


「えと、自己紹介って。どうすれば」
「自らの名を告げて、挨拶をすればよい」


しばらく後にこれは、お世話になる全ての生命、星々、スピリットに対しての、日常的な交流になることを知った。 呼びかけることで、周囲の存在を身近に感じとれるようになるからだ。


一人きりで生きることが、どんなに心細いか。想像できる人は、少なくないだろう。。
何もない荒野を、外敵に怯えながら、夜の寒さに耐え、ひたすら生きる糧を求めて彷徨わなければならないとか。

だけど、こうして周りの生命と交流することができれば、ずっとずっと心安らかで生きていけるのだろうと。ユイは思った。
自分の存在を受け入れる安心感が芽生えていた。
たとえ過去のあらゆる繋がりが途絶え、孤独になっていたとしても。

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