巡る箱庭✨森の家の食卓

1−6「森の家の食卓:穏やかな朝の始まり

BGM:♪森の家の食卓

 

書庫の建ってた場所から一つ上の丘、大きな樹?を中心に囲む円形の建物に、スセンの案内で招かれた。
入り口近くの石窯には薪が焚べられており、煙突が屋根を突き抜けて、煙を上げている。

じゅいー。


ーーーーーー「食堂」の扉が開いた。。
中に入ると、もう一人。女の人が奥の竈でご飯の支度をしている。
何とも美味しそうな匂いが立ち込めていた。


「いらっしゃい。あなたが昨夜のお客さん?」
「...はい。昨日からお世話になってます」


竈の方から、40代くらい?の元気な女の人が迎えてくれた。軽く挨拶をする。

「おじいさん。こんな子を一人放っとくなんて。お腹すかせて大変だったでしょうに」
「まぁまぁ儂なりの心遣いだよ。どれ、少しは自分のことを思い出せたかな?」


...そういえば昨晩、なにか夢を見たような?

「うーん、まだ頭がボーッとするけど。はい、名前だけは。マーリユイトと言います」
「まぁ、ユイくんね。今ごはん炊いてるからゆっくり食べていってね」


ユイくん...?!呼ばれた名前に。

その呼び名に親しみやすそうな表情を浮かべて。
記憶に授かった名前よりも、ユイの響きの方がこの場に馴染むのかな?


「ほっほ、儂もそう呼ばせてもらうかの、ユイ」

スセンもそう仰る。ユイはこくん。と、相槌で了承した。
すかさず包丁のトントントン。あの人手際いいなぁ。

そういえばお腹すいてるのかも。ぐ〜。


『にゃー、にゃー』

どこからか、ご飯を心待ちにしているような猫、の声も聞こえる。

食堂の建物は、新鮮な木の香りに包まれた八角形の木造で、室内なのに驚くほど開放的な空間だった。 朝日が、大きく開け放たれた窓から差し込んできて、ゆらゆらと葉っぱの陰を揺らしている。。

小鳥のさえずり声も間近に聞こえる。


ちゅん、ちゅいー、ちー、ちちちち。

まどろむような日差しと温かさに、冬の冷たさすら心地よく感じた。
リズミカルな包丁の音が途切れ、暖炉で暖められたお鍋や釜からぐつぐつ、何品かの料理が器に盛られ、運ばれてくる。


「さぁお食べ。おかわりもあるからね♪」


いくつかの器が乗ったお盆ごと、目の前に置いてくれた。ありがとう、一礼。 美味しそうな匂い、温かい食卓。何だか「食べる」って久々かも。

【料理:食べ物は記憶です。様々な食材や料理法を味わってみましょう】


「さて、この地方でよく知られる【和の御膳】だが、ユイ。お前さんには馴染みがあるかな?」
「?」(そういえば全く見覚えない食べもの?ばかりで。)


つい空返事をしてしまう。
しかしなるほど、食べ物で記憶が判るかもしれない。
自分が以前、どんなものを食べてたのか。


もう一度、よくよく料理を眺めつつ、香りを楽しんでみる。


・白いつぶつぶが一杯入ったお椀。

つぶつぶから透明な湯気が立つ。全く知らない食べ物。何だろうコレ?

「この白いのは、何て言うものですか?」
「ふむ。【ご飯】は初めてか... 稲穂から採れる【穀物:お米】を炊き合わせたものだよ」


スセンの解説になるほど、まず一口食べてみる。手で少し掴んでパク。もぐもぐもぐ。
温かく素朴で柔らかい食感、噛めば噛むほど仄かな甘みが口の中で広がっていく。
これまでに味わったことのないような、不思議な味覚だった。


「美味しい? ふふ、私たちもいただきましょう」
「ああ、頂こう。いつもありがとさん」
「ごちそうになります(T_T)」


食事を挟みながら、簡単な自己紹介をした。
彼女の名はミカ。此処の家族の一員だよ。との事だった。

三者三様に会話しながら(主にはユイへの質問だったが)
楽しい食事の時間が過ぎていった。


「手づかみも良いが、【お箸】は使ったことあるかい?」
「お箸、ですか?」
「これだよ、スティック(棒)を2本指の延長のように使うんだ。カチカチっとな」


スセンやミカは細い木の棒を2本手に持ち、棒の細い先を指で操作して、器用に【ご飯】を掴んで口に運んでいる。


「この地方では、道具を自分の身体の延長のように使う風習が在ってね、日常の中で、こうして訓練するんだよ。お陰で手先が器用になるんだ」
「(笑) 何も知らん子にテキトーなこと吹き込んだらダメよー! おじいさーーん?」
「何かの? 儂はいつでも大真面目だぞ。ほれ、こーして箸を持って、ご飯粒を掴んでみなさい。代わりに儂は手づかみで食べよう」

「はい、やってみます!」


威勢よく返事したものの、なるほど難しい。2本の棒を持つ所まではできるのだが、うまく動かせないし、箸先がずれてモノを掴めないのだった。
難なく箸を使って食べている二人が、神がかって見える。


「でもいったい、ユイくんは何処から来たんやろうねぇ?」
「うーん、この辺りではないかもしれません。料理?も初めて見るものばかりで...」

特に、木のお椀に入ってた茶色のスープは、物珍しい印象だった。 これも、和という国に昔から伝わる郷土料理だそうだ...

詳細を聞けば、蒸した豆をすり潰して塩と"米糀"で熟成させたもの【味噌】...で味付けしているとのこと。 独特の芳香に、コクのある旨味が醸しだされ、単なる豆料理というにはあまりに、味わい深いスープだった。


「ご飯も味噌汁も知らんって、どこか遠い国の生まれかしら?」
「ふむ、手づかみで食べる飯も格別じゃな。しっかり指に引っ付いてくるわい」

「おじいさんは少し自重しましょうね(笑)」
「素手で食べるのも偶にはいいぞ。握り飯にすると食べやすいのは再発見じゃな」

「💡あ、お握り。そうだ? ご飯をこうすれば」


ミカんは台所に戻り、ユイの残りご飯を丸い【俵お結び】の形に握り直してくれた。
水で濡らした手で、ご飯を一塊サイズに握り固めて【海苔】を巻いて、はいどうぞ♪


「わぁ、すごい! さっきより食べやすいし、もっと美味しくなってます!」
「ふふふ♫」


お握りの中には、味のアクセントに赤紫色の実の欠片が。
その実は酸っぱくて唾がいっぱい出て、口の中のご飯が一層甘く、おいしく感じた。
(これは後で【梅干し】だと知る)を入れたのだそう。


『にゃ〜〜!! にゃ〜〜〜!!!』


あ、猫。
どこから来たのか、黒いねこ、白茶ねこがテーブルに近づいてきた。


「なんだね、クロネ。リア。お前たちのご飯はさっきあげたろう?」
「にゃ〜〜ん!! にゃにゃなーん➹~➸~➷」


[もっとくれ、在るのは分かってるぞ?]と言っているように見える(' '*)...

「ふぅ、猫は主に肉食であるはずなんだが。。」


と言って、スセンは徐ろにご飯と、良い香りのするフリカケ(【削り節】というみたい)を取り出し、お皿に入れて差し出した。


「この子たちは?」
ユイは尋ねる。


「うちに住み着いてる猫だよ、家族の一員みたいなものだな。黒いのが「クロネ」、白と茶色の子が「リア」という」


なるほど、じーっと食べてる様子を観察してみる。 がつがつがつ、ご飯に夢中だ。削り節からあっという間に平らげてる。

(もしかして、昨晩いっしょに居たのはこの猫たちなのかな?)

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