巡る箱庭✨新しい一月

1−8「孤独への祈り」

どうして、過去の何もかも思い出せない状態で、この世界に降り立ってしまったのか。
それが、ずっと不可解だった。


ユイは、たまたまスセン老師と巡り合い、彼の家族や人生観に触れ、
生きる。。。とは、とても充実した日々を過ごすことだと実感していた。


柔らかな丸い草(【クローバー】というらしい)の上でお昼寝したり、
2匹の猫と遊んだり、白い鳥たちと戯れたり。湖のほとりへ出かけたり。
夜は丘で星を見たり、星の欠片を拾いに行ったり。。。
書庫でお茶を飲みながら、絵本を広げたり、文字の読み書きを學んだり。
食堂でミカさんの美味しいお料理を食べたり。クッキーを一緒に焼いたり、
箱庭のベリーや星草の新芽を摘んだり。ほろ苦い葉っぱに苦悶したり。
スセンお手製の図鑑を見ながら、目の前の植物が何なのか調べてみたり。
次第に薬草の見分け方や、煎じ方、季節のハーブティーのブレンドにも挑戦をしてみていた。

スセン一家の箱庭には、彼やミカさんの暮らし、料理、哲学に相応しいモノたちで溢れかえっている。
どれもが彼らの生活に欠かせない大切な要なのだと理解するのに、2ヵ月(月の満ち欠けが2周巡る期間)もあれば十分だった。
何かわからない枝や葉っぱにも、乾燥させて薪にしたり、お香や薬の材料になったりなど、無用なものは何一つ存在し得ないのだった。


いつの間にかユイの人生観は、スセン一家の箱庭に住む住人たち、植物たちで、すべてが彩られていた。



以前どんなふうに、生きて、何を思って旅立つことになったのか。もはや考えることもなかった。
ユイの自我は真新しい体験の記録で塗り替えられていく。

『それでいいのかな?』


と、ときどき心の中で誰かが問いかけてくるが、既に過去は置き去り。。
なら仕方ないよね。と、心の葛藤を押し返し、放置するより他なかった。



が、何度も何度も問いかけるうちに、ユイは、あることを思い立った。
明くる日、スセン老師に尋ねてみたのだ。


「僕が何者なのか、スセンは何かを知ってるかもしれない」


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