巡る箱庭✨星の案内人

1−2「星の案内人:星降る夜の丘に

BGM:♪星の案内人

 

少年は、見知らぬ土地に降り立っていた。
辺りに広がる草原を、その高みから見下ろせる其処は、やはり知らない。

夢を見ていた氣がする。
深淵を潜り抜けて、此処にたどり着いたと。

意識が曖昧なまま、行き先も分からず、どこへ向かうと言うのか。


「何をしていたんだっけ?」


此処に来るまでに、何か目的があったはずなのだ。
置き去りになった記憶、その何かが今にも思い出されようとしている。
けれども、鮮明に想い描くことができない。


少年は、草原の先に見える小高い丘へ向かった。
そこから、きっとここ近隣の地形を見渡せるはずだから。


サラサラ、光の粒が零れる。
足跡を残して、彼は歩き出す。

ただ不思議に、魅力あるこの大地を。
かつて踏みしめていた現実味は、未だおぼつかない。

草原と、草花の匂いと。そのなかで、呼吸する自分。





頂が見えてくるにつれ、太陽はあと僅かで一日の役目を終えることに氣づいた。

どうしたことだろう。
夕闇に染まり行く空、西日は連なる雲で反射する。
あとはもう、かすかに地上を照らすだけだ。

夜の兆しが、見え隠れしている。
東の空に、白くおぼろげな星々が、うっすらと存在していた。


「此の場所は…」


頂、小高い丘から見える眺めは、薄闇に包まれた。
景色は、その光も届かず。ただひんやりと、その場で隠されて。

次々と影に覆われていく。空。星。星が瞬いた。
手をかざせば、其処に光がこぼれ落ちてくる。

風は、一つの(せい)の終末を告げる……
星の欠片が宙に散った。零れた光の粒を、一つ、二つ...少年は両の手に受け止めた。

綺麗...



「おや? 先客とは珍しい」


と、その清寂な輝きに心を奪われかけた瞬間、不意に声を掛けられた。
壮年の貫禄がうかがえる、落ち着いた声。そこには、紺色の衣を纏う男が立っていた。


少年は驚いて応える。まだ幼さの残る声は、高く透き通った響きを奏でた。


「...あなたは?」

「ふむ、わしは此処で星屑を掬っておるんだよ。」


やや老成した言葉遣い、その男性は穏やかな響きで返す。 彼の手のひらには、すこし砕けた星の結晶が見事な異彩を放っていた。


ーーーー


星降る夜の最果てに。
ここは、水晶林のはずれにある小高い丘。

無数の灯火が揺らめく天と、其処から生まれる輝き。
崩れ、光の結晶として零れ落ちる。なきあと。
その血に流れるコトダマと、繋ぎとめる一陣の砂塵が舞い降りる。
天と地と、隙間を縫うかのように……



「僕は…」

星と会話する。
けれどもそれは唯、一方的に言葉を投げかけるだけだ。
もしくは、それを自分の中に巡らせて、消え行く。

しばらくして、少年は言葉を続けた。


「ちょうど僕も、星のかけらを拾ったんです。これ...」


先ほど両手で受け止めた星屑の欠片を見せると、男性は少し驚いた様子で、少年の手元に伝う光の軌跡を追っていた。


「ほぉ… お前さんにも星の旋律が聞こえるんだな」



まばゆく煌めく星空の下、老人は少年の全貌を眺めていた。
零れた星屑の灯が、二人の間を巡って共鳴しているようだった。


「お主の行き先は。そうなのか...」


男はそう言って間もなく、手を振りかざした。
ひらりと空のかけらと交わる、意識の一部分がそこに赴いたのか。

光の成す、言葉を一つ。此処で見届ける。
闇夜の軌跡は、儚く、強く。あるべき場所へ次なる輝きを解き放つ。


「さて、此れだけあれば十分か」


彼は、今何をしたのだろう。
少年のその瞳には、まるで手の伝う形跡も無かった。
彼の周囲に一陣の風。其処にふわりと舞う星の欠片たち。
そこから少しばかり、大氣に導かれて天に帰っていた。


「此処で拾った星は、格別に美味いんだよ。紅茶なんぞに浮かべて飲むとな…」
「紅茶...?」
「善ければ、わしの家に来んか? 自慢のお茶を入れて差し上げよう」


よい退屈しのぎになりそうだ。
と続く言葉に、マーリユイトも嬉しい提案だと感じた。


「是非。お願いします、えっと...」
「ああ、お若いの。わしはスセンという名だ」
「僕はマーリユイト... マーリユイトです」



確かな記憶の旋律が、微かに心を震わせる。
空はまだ宵闇には至らず、これからが天を漆黒に染める時。

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