巡る箱庭✨自らの内に宿るもの
2−4「自らの内に宿るもの」
「私を見ているのですか?」
記憶の中のアリシアは、中空に言を解き放った。
いったい誰に向かって?? まさかの答えは一つしかない...
「ここは様々な思念が交錯する場所ですから、何者かが紛れ込んでも不思議ではないわけです、敢えて目的は尋ねません。ですが、あなたに私を解き明かせるかしら?」
彼女は凛とした声で告げる。
「私の名はアリシア。いくらか石詠みに通ずる身の上。私の思念は既に感じてることでしょう。ですが、私の生きた時間は過ぎ去りました、私は既にアリシアではないのです。あなたが見ている私は、私の本当の姿ではない。真の私はあなたと交わることはない。」
まさか。記録上の人物から、急に話しかけられるなんて在り得るのか?
空耳でも幻聴でもない、はっきりとした「声」で尋ねられている。
意識が、呼応するように言葉を返した。
『それならば、あなたはいったい??』
「そうね。私が存在しないはずのあなたの内に、こうして話していられるのは。
まぁいいわ、ちょっぴり境界を外させてもらいましょう。」
彼女が指先で光の扉を描いたが瞬間、世界の境界は破られた。
熱が、星屑の炎の熱気が、再び自身と一体になった感覚。
自身の内に燃える火よ。
「あなたの感じる火は、私の内に燃えるもの」
『私の感じる火は、あなたの内に燃えるもの』
「私の感じる熱は、あなたが内に灯すもの」
『あなたの感じる熱は、私が内に灯すもの」
「あなたの記憶の残像は、私の内に宿るもの」
『私の記憶の残像は、あなたの内に宿るもの』
「故に私は...」
『故にあなたは...』
まるで呪文のように、謳うように旋律が木霊した。
自分自身が、語りかけているのか、語りかけられる存在ナノカ、
どちらか判らなくなって、自身の内に2つの魂が重なっているように感じた。
「『マーリユイト』」
マーリユイトは彼女を認識した。それはアリシアの息吹を記憶の中に感じたから。
同時に、彼は心の内に彼女の存在を写しだした。彼女の存在は、マーリユイトの内に宿り始めていた。
炎の熱は、ゆっくりと二対の魂を共鳴させ、螺旋を編みながら次元の灯を昇華させる。
現世に生きながら、炎に記憶された過去の秘術を、思い出される限りにおいてだが、継承と再現を可能にする。
秘伝。自らは空っぽの器であり、先代の魂を迎え入れるものとして。
透明な器に、彼女の旋律を共鳴させる。私の呼びかけに応じてくれたなら。彼女は力を貸してくれるかもしれない。
けれど魂は何者も縛ることは敵わない、自由な存在。
風のように出会い、一羽の白鳥を連れて、瞬く間に飛び去っていった