♪精霊の風灯り
0/(秒)灯火の行く先を照らす、"風灯りの洞窟"に辿りつく。
あらゆる光の届かない空洞の魔。
火の精の灯りも視界を照らすには足りない。
洞窟の中は、漆黒の岩肌と不透明な氷化粧で覆われていた。
つららなる氷の滴りに、大気の薄く結晶化されており。
凍てついた大気がせわしく指先をこごえさせる。
まるで底は無慈悲な氷の織り。
幾度と風が運ばれるその流れは、閉ざされた冷気を縫う糸のようだった。
以前、此処に訪れたのはいつになるのだろう。
もはや気の遠くなるほどの時間が、風の流れに留まったまま。
彼らは同じところをぐるぐると廻っている。
この地に眠る様々な記憶は繰り返され、変わることのない永遠となって凍り付いていた。
一面に靡く冷たい風が空洞に響き渡る。
この空間に胸騒ぎを覚えた。
内を流れる脈動が心臓の刻みに呼応する、ひとつふたつ。
まるでそこから、自分の音じゃないみたいに響いている。
丘で拾った星の結晶が、胸元で灯を掲げている。
それは持ち主に、何かを物語っているようにも感じ取れる。
アンサンブル、静かな闇色との共鳴。
不意に、旅人は目を奪われる。
まるで突然すぎて理解できない。
星の輝きが洞穴に吸い込まれていくのを見た。それも一気に...
『ああ、行かないで遅れ』
誰も居ないはずの、星灯りの中に一人。また一人。
唐突にファレグは声をあげる。
あれは生前に雄姿を決した相棒ジェバンニ。友人のパルコ・ポール。
そして情熱の時を共にした恋人、エリス。
あの光の下に居るのは、かつての仲間たちの幻影だった。
ファレグの瞳はその虚ろな言霊で語りかける。
彼らの姿は、かつての記憶そのまま。流れ、消えて行く。
その輝石はまさに、石に留まった残留思念そのもの。
燈る風灯りの先達に、ファレグは訴えかけた。
もう二度と届かない、かつての友に送る。聞こえても理解できないだろうに。
『ジャン・ナターニョ! ああ、オリキス・ツェンバレナー!』
いくつもの知人の片鱗が、流れ抜けていく。
ほんの数秒の時中で、この消えていく様を何度も何度も見届けて。
そして彼らを見送ることしか許されることのない...
記憶の走馬灯に下る最中、ファレグは思わず涙を零した。
そんな中、彼は気づかないだろうか。
自らの火の源も、精霊の風灯りと一体となって流れていることを。
もう何も無い、安らかな静寂…
そこに一つの小さな蜻蛉。どうしたんだろう?
「迷子になったの?」
「片割れとはぐれてしまったの。寂しいよ」
もうみんな行ってしまったんだ。精霊達に導かれて。
ぼくらも行かなきゃいけないよ。
ほら、共に探しに行こう。