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巡る箱庭✨現世の記憶

3−1「どうして彼はその夢を見たの?」

どうしてマーリユイトはその夢を見たのだろう?

それは彼自身が望んだから。
或いは、見て欲しいと想い続けた誰かが居たからだと、後になって思う。


現実に其処に在るかのような記憶の残像は、星の生命たちが感じていた想いだった。
想いが、強固な石(意志)から発せられる故に
その想いの投影が、実態として触れられる形に集まって創られていた。

私たちが目の前のイメージを実態として捉える時、
実は、強固なる石(いし)の感情に巻き込まれた結果なのだと。
いつの日か、認識することもあるかもしれない。


意志ある存在にとっての夢、綿密に、望むがままに紡がれた旋律の形。
それが周りに集まったモノにとって、希求されし実像として映し出されているのだ。
生命たちが、その夢に触れたいと多く願うならば、石の想いはより確かな存在へと成り代わるだろう。


魂の想い...原初の音の旋律。それは夢を映し出す形。
メロディが交錯し、断片を繋ぎあわせたような、混沌。
一見、繋がりが見えない。

淡々と視ているうちに、少しずつこの現象が当たり前だと思い込んでしまうんだ。
ふと氣づけば、この現実は誰の思い描いた夢なのだろう? と、分からなくなる。
自分は今、何処に居るのか? 何を望んで此処に居るのか?



マーリユイトは、失くしてしまったあるべき場所を求めて
いつか帰る場所を求めて、彷徨っていた。今も、未だ。

自分という形を繋ぎ止めるために、囲われた世界において星の生命力を必死に分けてもらいながら、真実の居場所を、かつて失われた真実の記憶を、根源を、思い出すために。


まるで知恵の輪を解くかのよう。

見えなくさせられていたんだ。自分の本当の姿を、本当の夢を。魂の想いを。 色々なノイズによって雁字搦めにされ、真実を覆い隠すように世界は混沌としていた。


かつて終焉の時代に存った世界は、あらゆる真実が形を見出だせなかった。限られた物質文明のみが存在を許された社会。 その他の魂は、文明の存続を叶えるための奴隷に過ぎなかったのだ。

マーリユイトの生きた時代や場所でも、状況は似ていた。ただし、そこでは人までが奴隷だった。
統治者を除いた、それ以外の大多数をいくつかの種族に分け、異種族間で優劣を争う強制奉公ゲームを展開していたのだ。統治者の織りなす類まれなる技術や恩寵を頂戴するために、自らの属するチームが評価されるために、より多くを与えてもらう為に、ただ責務を懸命に全うするしか無いのだと。生まれながらにして、そんな生き様を、さも当然のように受け入れねばならない体制だった。集団に属する個人は、この世界で生き抜くために、無理にでも与えられた役目を演じようと、集団の中で自らを歪める心理が働いてしまったのだった。

集団、周りの皆が同じ有り様、それだけが世界の全てのように映ってしまってるから。
苦しみだらけの表舞台で、皆が生きていかねばというように思われるから...
自分も、そう在らねばならぬという錯覚。

...気づけば、世界はあり得ない光景だったのだ。

この惨状は、望まれた世界ではない!


本当の、自分自身の居場所、描きたかった未来。
何処に行ってしまった?

微かに覚えてるんだ。まだ現実を目にする以前の。
あの場所、あの日見た記憶の場所が、たくさんの想いの欠片たちが。

囁きかけてくる。夢の中で。
認識できる? 思い出せる? 夢の中での出来事。

夢、表層の情景は、誰かの描いた運命の道しるべ。だけど夢の奥底では、自らの輝きを解き放たんばかりの、熱烈な想いが今すぐにも目覚めようとしている...! 失われていた(マナ)の欠片。その一粒を通して。

断片的な記憶では、未だ分からないことが多いけど。 確かに、その糸を手繰り寄せた先に、存在しているのだ。

魂から鳴り響く想い。
かつての楽園の姿を。。


マーリユイトは、この世界の真実を見定めようとした。 現実から離れ、夢を視るようになった。あの日の記憶を確かに覚えていた。 どうすれば、あの日の懐かしい楽園への旅路を、目の前に見出だせるのだろうと。

決まりきった日々の責務を全うしながら、ずっとずっと考えていた。

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