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巡る箱庭✨戦いの歴史

2−3「戦いの歴史」

世界を支配する石は限られていた。戦いに勝利し、その石を手にした者が世界を支配した。
こんなセカイだったからこそ、人々は争いの先でしか自らの望みを体現できなかったのか?


世界とは石取りゲームのようだ、と黒猫が言っていた。
この世界。価値ある「石」は一握りだ。
雑多な石は無価値に等しく見向きもされない、場合によってはゴミとして排除される一方、世界の起源より代々伝わる「由緒正しき石【世界の宝珠】」のみ、大いなる力の真価を認められていた。

世界の宝珠...全てを手中に納めれば、この世の全てを支配できる...とまで言われた。


「宝珠」を巡る争いは、時代と空間を超えて繰り返される。 かつて大きな争いが終結した時、世界の宝珠はバラバラに分断され、今では各国の主要機関の元に収められることとなる。


かの大いなる存在とは、元々は1つ。
力を望む人間は星の数。
それが理ならば、1つをバラバラにして皆で分け合うしかない...

そうして石は数多の破片となり、元々一つだったものが離れ離れになってしまったのだ。
嘆かわしい出来事だ。このままではいずれ、世界各地の「破片」を巡って、再び争いは絶えなくなるだろう。しかも有史以前より最悪な規模で...だ。


ならば我こそが、世界の宝珠...大いなる存在を然るべき一つの形に統べる時ではないか。
そうすることで此処に真の支配者が生まれ、世界に確かな平穏が訪れるのだから。

世界の意思。散り散りになった意志よ。
世界の意思とは、その欠片は何処まで枝分かれしていくのだ?
それらを辿り、たった一つの根本を明らかにしないかぎり、我々に真の安らぎを与えられることはないのだろう?



誰よりも早く。
何よりも確実に。。。

世界の意思を統べよ、と。聖なる石が囁きかける。




。。。。。。。。









記憶...



カイリは、幼い頃に孤児として教会に引き取られた。


未だ小さく物心ついた時、傍には母が居た。父は居なかった。
母は、父に捨てられたそうだ。母は父に愛されなかったのだと。
その間に生まれたカイリは、両親の愛を知らないで育った。

そして、当時母子だけではとても生きづらい世界であった。

そこは、誰しも労働でお金を稼げねば生きていけない環境だったんだ。
母は生活のために働き、子を育て、そしてまた働く。
2人だけの家庭に、心休まる時間などあっただろうか?

いつも余裕なく、ひたすら母子共に生きるために、懸命な母の姿があった。
本当なら、お父さんと呼べる人が居たならば...


カイリは、男の子だった。
母を捨てた男の面影を残した...可愛らしい出で立ちの影に母の苦い記憶を想起させる...父に似た顔つきをしていた。

繰り返されるお母さんの言葉。
「私を捨てたあの男。お前を見てるとあいつを思い出すよ...」

幼き耳に、憎悪を含んだ母の言葉が幾度となく響いていた。


お父さんは何処に行ってしまったのだろう?
お母さんはどうして泣いているのだろう?
かわいそう。僕に何ができるのかな?

母のことを想うと、当時幼子だったカイリも、哀しくなって泣いた、一緒に泣いた...


「私だって泣きたいわ。お前、泣けば許されてると思ってるの?!ああああ」


...ある時、やり場のない怒りの矛先が、強く、幼いカイリに向けられた。幼な子の細い首に母の手が。


「もう疲れたわ...『最初からおさえなければ...!』」と


一時的に首を〆られ、殺されそうになった。
母親から殺されそうになった。

6つになる前だった。抵抗できなかった。 その幼子は母が居なければ生きていけない。けれど、母親がその幼子のせいで苦しんでいるのであれば。 カイリさえ居なくなれば、母は苦しまなくて済むんじゃないのかと...

カイリは、もう自分が居なくなったほうがいいんだと考えた。
自分がダメなら、せめて母を想って、生きる全てを諦めようとした。


死を受け入れようと覚悟を決めた。
しかし母の手は、カイリの首を締め付けるその力は、不意に解かれた。
カイリは息も絶え絶えに、半ば気絶しかけていた。

一瞬のことで、何が起こったのか全く分からなかった。

翌日、母は失踪していた。
幼いカイリを残して...


「教会に行きなさい」との置き手紙を残して。



「教会」とは何だったろうか? そこで母は待っているのだろうか?
カイリは頭の中ぐるぐるで、起き上がった後、いつの間にか「お母さんがどこにも居ない」という衝撃をこらえながら、小さな頭で懸命に考えた。

家と商店街の間、いつも通る道の途中にキレイな白い建物があったのを思い出した。
十字架のシンボルを掲げた「教会」...は、この世界を創った神様がいつも見守っていて、いい子にしていたら幸せを運んでくれる場所、悪い子には罰を与えて行いを正してくれる場所なのだと、母は教えてくれていた。

月に1度か2度、決まってお祈りに行ってたのを思い出した。


もしかしたら自分は、悪い子にしていたから罰が下ったんだろうか?
いい子になれば、お母さんはまた姿を見せてくれる?

そんな淡い希望だけが、幼いカイリにとって全てであった。。


「いい子にしてたら、いつかきっと母が迎えにきてくれる」


その希望が叶うことなど、永遠にありはしないというのが、直ぐには分からないだろう。
一時的には、そんな淡い期待にすがって生きるのも良いだろう。
しかし時として、現実に起こりえない希望へと目を逸らすことは、それが長く続くほどに、幼い彼の心を闇に染めることとなるのだろう。


かつて世界を創造したとされる「神」は、このような悲劇を想定していたのであろうか?

「神」の存在を説き、神より伝えられた言葉を介して、人々を正しく導く「教会」という建物... その敷地内に併設された「孤児院」にカイリは引き取られた。孤児院は、身寄りの無い弱き子どもたちを助け、見返りを惜しまない。「神の愛」によって成り立っているとされた。



神は「愛」によってすべての人々に平等な祝福を与え、民を正しい道に導くという。その為に、かつて神は聖者を遣わされ、人の世に教義を記されたそうだ。綴られた教義は「聖書」に記録され、教会は聖書の言葉を用いて、人々に戒律を教え広めていた。


戒律とは、覚えてる範囲で、こういった記載が続いている。

「家族、隣人を愛しなさい」
「感謝の気持ちを持ちなさい」
「他者を非難してはなりません」
「悪しき心に身を委ねてはいけません」
「教えを守る限り、神のご加護は愛とともに在り続けるでしょう」


教会では、そういったいくつかの決まり事と、教義(人として守るべき定め)を教えてくれた。
先の理由から、カイリは懸命に言いつけを守ろうとした。


しかし、戒律が絶対とされるものであっても...
幼いカイリに、そんな教えは知り得るものじゃなかった。
それになぜ、自分は両親から見捨てられたのか? 教えに背いたから?

否、後で読み返しても、決して間違った心は持っていなかった。


少年になったカイリは、捨てられたことに対する正当な理由を、教義に求めた。
しかし聖書に納得できる答えは記されてなかった。
神の愛は平等ではない。神の愛は届いていない、
きっと生まれた時から、人は平等ではない。

そもそも愛とは何だ。
教義を、幸せのカタチを感じ取ろうとしたが、結局その先には何もない。
唯一の産みの親から捨てられた事実は揺るがないのだ。


親から捨てられ、神の言葉もロクに知らずに捨てられた子供とは、一体何なのだろう?
その疑問に、世話係の修道女「マザー」は度々言い聞かせていた。

「私たちが親代わりですよ。あなたは愛されてるの、だから今、あなたは生きている!
 愛を信じなさい。あなたが此処に居ることを神さまが望んだのよ。帰る場所がある。食べるものもある。
 それがどれほど恵まれた境遇であることか。大丈夫ほら、すべてに感謝の気持ちを持つのです。
 ありのままを受け入れるの、最初から何も心配することなんて無いのよ。ね?」


マザーの言葉を聞く度、カイリは空虚な想いに抱かれた。
正しいことを仰っているのだろうと。親が居なくても、こうして生きるのに不自由のない居場所が与えられている、感謝しなければならないことを、頭では理解していた。

だが、それでも。
血の繋がっていたはずの唯一の肉親に「捨てられた」とあれば、自身の存在意義とは何なのか? 自分は生きていて良いのか?この世界には、自分の本当の居場所はないのではあるまいか?
大きな矛盾が、カイリの中で膨れ上がっていくのだ。


"僕"自身は何の為に生まれてきた?」

考えるほどに、虚構の念は膨らむばかりだった。
自分を産んだ創造主(親)は、自らを捨てた。その事実が、胸の奥をざわつかせている。あるのは「苦しみ」...孤児院で施しを受けるほどに、胸の奥の「虚しさ」と「疑惑」は増し続ける。

...戒律を重んじる孤児院の日々は、カイリにとって息苦しいものだった。
心が張り裂けそうなほどの、哀しい気持ち、葛藤、様々なモノに対する疑惑の想いを、無理やり押し込めて、教会の教えの為に、お世話をしてくれる修道女たち、日曜日に訪れる参拝者たちに、いつも笑顔を向けなければならないからだ。


「主はいつも私たちと共に在ります、清き心を持って、今日一日に取り組みましょう!」


日々は祈りの朝に始まる、数年間代わり映えのない日常が続いていた。
院内の掃除、座学、聖歌の練習、昼食、お布施の挨拶回り、これらを孤児院の仲間たちと淡々とこなしていく。

カイリは、周りの孤児たちと表面的にはうまく付き合っていたが、心深くは馴染まず、全てに疑惑を持って生きた。なぜ、周りの皆は大人の言ってることを簡単に信じられる??気丈に明るく振る舞える? 理解できなかった。

清き心... 人々の、自分自身の、薄っぺらい張りぼてのような笑み..アレの何処に清らかさが?


人なんて、心の奥底にどんな本心を隠してるか分かったものじゃない。
挨拶回り、教会の人々は、皆、優しく慈しみに満ちた表情をしている。
だけど瞳の奥、時折ゴミを視るような哀れみの目。透けて見えるよ。

日曜日、仲良く礼拝に来る家族連れ...


あいつらの本心は、どうなのだろうな。戒律を守るのに必死か。
ちょっと突けば、本心が牙を向けば、一家ズタズタに壊れてしまうんじゃないのかな?
愛されてるなんて錯覚だよね。

あははwww




疑惑の心は、幼き日のカイリに暗い影を落としていく。
親から見放された彼の冷徹な瞳は、世界の歪さをありのままに捉えたのだろうか。

だがその歪な闇は、彼自身が捉えたものに過ぎない、周囲からは「悪しき心」として片付けられるものだ。 教義を受けた民にとって、そのような禍々しさとは、正しい教えによって粛清されるべき対象だ。


「闇」が彼の心を悩ませる要因は、カイリ自身の心の問題ではないか!

このことが、神の言葉に精通した教会の、。

受け入れられない。受け入れがたい葛藤は、やがてさらなる苦しみを呼びおこす。
心の奥深く、抑圧されし意志は、呪われた楔となりて、破滅の力を見出さんと欲す。


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【現在の章】第二章「炎の記憶」
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