巡る箱庭✨文明の伝記

2−3「文明の伝記:出口の見えない迷路

私が10の年齢を過ぎた時、歴史上に残された人類の文明が、終ぞ崩壊しかねない、世界の終末論が蔓延るようになった。 資源となる自然の森が急速に失われており、代わりに灰色の墓標が入れ替わり建つ...蒼く美しい星の原型が判らないほどの、歪に捻じ曲がった世界になってしまったから。気づけば、未来の存続自体が危ぶまれていた。(今更感)

文明的な暮らしは、人と自然とが分断された状態だ。
人の領域を拡大することが発展に繋がるのだが、糧となる自然が消耗されては元も子もない。


そんな時代の人々は、その恩恵に生かされておきながら、自然を不可知のものとして恐れていた。 恐れから、自然を囲い、管理し、或いは人だけの領土を推し進めようとしたのだと思う。
さらに自然の力は目に見えない怖ろしいものとして。文明はその成り立ちを解明することに躍起だった。
しかし彼らの学問や共通言語は、人の領域の、目に見える「物体(かたちあるもの)」でしか物事の理解を進められない感じだった。

彼らの云う「モノ事の価値観」、全うな人間に然るべき教えとは、たいてい目に映る事柄ばかり。姿格好、立ち振舞、数値で表された成績、その肩書を...外面を整える方へ、と価値観を偏らせる。

心の状態や感情などは一切の形を持たない、存在を蔑ろにされてしまうのだ。人は、人間同士...或いは他の生き物たちと「心」を通わせる行いを普通に忘れてしまっていた。


しかも質の悪いことに、文明社会で人は一人では生きられず(自然と分断されりゃ人は弱者も同然で)、仕方なくも集団の中での役割を担わねば生きていけないような社会であったから。周囲の生き方に歩調を合わせることが、まず鉄則。そのために、自分なりの生き方とは一旦折り合いをつける必要にも迫られたのだ。これで果たして、異なる人間同士の意思疎通が上手くいくものだろうか?


「偉い人(先生や年配者、リーダーなど)の言葉に従いなさい、こーしなさい、あーしなさい。言う通りにすれば大丈夫、将来も安心して生きていけるのよ!」


...ご尤もな格言や教えほど、怖ろしいものは無い。人間社会で無力な立場の人(ただ一人の人間、子どもだったら特にそう)ほど大多数に従う他ないから。世代を経る毎に、そういった規則のようなものを継承して社会の制度は大きくなっていた。付き従うも、子どもは大人の言うとおりに。大人は家庭を支えるために、家庭は地域集落に沿うものとして。集落からは地方全体に。地方からは国へ。そして国は世界情勢へ。その全体的な決まり事や制度に付き従うほど、望むモノの大半を大きな集団が保証してくれるように映る。しかし、安直な指針に甘んじた対価(ツケ)は、全て何処かで自分が精算せねばならない...ことが後になって判る。そんな真逆。


先の目的を叶えるのに、自身で対価を背負う覚悟あらば、その上で道を選ぶといいだろう。 ただし行先の見えてないまま、都合の良い大人たちの言うとおりの選択を迫られると、どうなるか?

...所詮は目先だけの安心だ。 対価として自身の未来を投げ出すことに成る。集団規則や制約、文明社会そのものから、人生都合よく扱われて終わり。人はますます社会システムに従属化し、殊更抜け出せなくなってしまうのだ。それが最終的に、自身の命に反することであっても...だね。


どうしてか、集団の規律を重んじるあまり、一人一人の小さな感覚は蔑ろにされてたし。子どもたちは社会単位で取り組むべき時間割や決まり事を定められていたし、それが普通という観念。どうにも。集団意識の独りよがりな人生設計を、さも最上のように求めさせる...幼い頃からお手本通り、さぁどの子が上手くできるかな? 競争によって掻き立てられる、自分こそが皆から一番にご褒美を受けたい欲望、集団から評価されるための努力、に延々と縛られ続ける様は、まさに操り人形かな。


規則に則った他人の評価が、自身の価値の全てのように映ってしまう。そんな錯覚の中で、自分の価値を高める努力...とか、周りの大人から「いい子だね、よくできたね」と、褒められるだけでお終いだ。
そんな生き方して、何が残るかな? 一瞬のご褒美(お金)で終わりかな? ま、他者にどれだけの評価を乞い求めようと自分の意思ではどうにもならん。言われた通りのことを続けるしか無くなる。人間の形をした哀れな...


怖ろしい時代だったな。おそらくその世界において、集団操り人形のような異空間が何処にでも蔓延っていたのだから。自身の本心とはかけ離れた、他者に乞い患う行動を取らざるをえない。その代償は如何ほどか、満たされることのない、賞賛を得ることへの、上に立つことへの、それら見返りを求めることへの、矛盾した欲望だけが渦巻く、人々の孕む矛盾は、見えざる呪いとなって、心の内部に成長し、己自身を蝕み、いつしか魂が人のそれでは無くなっている怖ろしいナニカ...場合によっては、アレは人じゃない何かにスリ替えられていたのかもしれない。


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私は、上手に人形を演じ続けようと思った。

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